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丹波篠山地名考

「桑原(くわばら)」

桑原 西紀地区、友渕川の上流に位置し、山ふところに囲まれた静かな里です。地名は桑を植え養蚕をしていたことに由来するといわれています。一説には雄略天皇(5世紀後半のころの王)の使いによって桑が植えられたとも、和泉式部の植樹ともいわれています。草山誌の一説に「桑原の里に引くまゆひろひ置きて 君が八千代の衣糸にせん」という歌が残されています。
 和泉式部は、平安時代(西暦1000年ごろ)に恋愛の遍歴を重ねた有名な歌人です。この和泉式部の伝承は全国各地にあり、すべてが真実とはいえませんが、女性伝承の一つとして、泉や川辺で宗教行事を行いながら国々を回った女性たちが残したものであろうと思われます。この和泉式部をたたえる供養塔が毘沙門堂に残されています。
 この桑原の地名は、鎌倉時代の説話集として知られる「古今著聞集」(1254年)にでてきます。
 「後堀河天皇のとき、家来の一人が丹波国桑原にワサビが多く生えていることを聞きつけて、山伏といっしょに山に入ったと。ところが、この山にはハヤヲという大蛇がおり、鎌首をもたげて二人に襲いかかったと。もう逃げられないと観念した家来は栗の木の根元にあった杖で立ち向かい、山伏は刀を抜いて大蛇に斬りかかった‥・。やっとのことで大蛇を退治した二人は、無事に桑原の里へ帰ってきたそうな…」そういえば、桑原の西の奥には「ヲッソロシ谷」という谷があるそうです。また、北方の守護神である毘沙門堂のそばには「金持地蔵」があり、「朝日さす夕日輝く花の木の元 黄金千両細縄千尋」という歌が残っています。伝説と自然のロマンに包まれた桑原の地を一度訪ねてみてください。

兵庫県文化財保護指導委員 大路 靖