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丹波篠山地名考

「小原(おばら)」

小原 「小原」は篠山盆地の東北部、旧大芋(おくも)村にあり、集落の中を国道173号が南北に縦断しています。「小原」の地名は、あまり広くない野という意味からきたといわれています。
 しかし、この地は古くから三岳修験道(みたけしゅげんどう)の東の登り口として栄えていたようです。小原を登山口として、八(はち)ケ尾から筱見を抜け、小金岳、三岳、西ケ岳と多紀アルプスを縦断して栗柄の不動尊まで連なる壮大な修験道場でした。その証として、八ケ尾の尾根にあったといわれる大日堂が小原の里に下ろされ、今も集落の人たちによって大切に守られています。
 このお堂に安置されている本尊は木造大日如来坐像(もくぞうだいにちにょらいざぞう)で、平安時代後期の作と伝えられ、県指定文化財になっています。また、大日堂の前にある高さ25メートルもある雌雄の大銀杏は樹齢300年以上の巨木であり、紅葉の季節ともなれば、なんともいえない美しい景観と風情(ふぜい)をあたり一面にかもし出してくれます。
 さらに、集落の北東には「毘沙門(びしゃもん)の滝」と呼ばれる三段の滝が流れています。多紀郡明細記に「一ノ滝八丈六尺(約25m)岩上ヲ流ル西二向テ下ル…三ノ滝一ノ滝ヨリ拾丈四尺下ニアリー丈五尺岩上ヲ流ル…三ノ滝三丈岩上ヲ流ル…傍ニ石像アリ大黒天弁財天相並フ‥・」と記(しる)されています。この滝の上に昆沙門山があり、山上の岩窟には石造の昆沙門天が祀られています。昆沙門天は多数の夜叉を引き連れて北方に睨みをきかす守護神です。暗い岩窟のなかに静かにただずむこの毘沙門天には、不思議な現象があるそうです。年に一度、初寅のころ(正月の寅の日のころ)だけ太陽の光が岩窟の奥まで差し込み、毘沙門天のお姿をくっきりと浮かび上がらせるのです。さて、どんなお顔に見えますやら、ぜひ拝観したいものですね。

(参照図書) 角川日本地名大辞典、多紀郷土史考、平凡社「日本歴史地名体系」
兵庫県文化財保護指導委員 大路 靖