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ささやまのみんわしゅう 文・画 田中貞典 |
■ 弘法大師の水衣は破れ、ひげは伸び放題という見るからに、みすぼらしいお坊さんです。「ああ、今日もよいお天気じゃ。こんなに日和続きじゃお百姓が困るわい。」 と、つぶやきながらよぼよぼと歩いていきました。よほど疲れていると見えて、大きなけやきの木陰に腰を下ろし、 「ああ、のどがかわいた、おばあさんや、まことにすまんが水を一杯くださらないかな。」 見ると、あまりにもみすぼらしいお坊さんなので 「水かいな、わしの家で使うだけで精いっぱいやでお前さんなんかにやる水はこれっぽっちもないわ。」 すげなくことわられて、お坊さんは仕方なく味間南を指して歩いていきました。村の入り口でせっせと草を刈っていたおじいさんに、 「すまんが、水を一杯だけくださらんかな。」 「はいはい、おやすいことで。」 お坊さんはくみたての水を飲み干しました。 「ああ、おいしい水じゃ、これで生き返った。どうもありがとう。」 何回も何回もお礼を言いながら山すその草むらに行って持っていた杖を突きさして、 「ここは、きれいな水のわくとこじゃ。掘ってみなさるがよい。」 と、言い残して、どこともなく立ち去っていきました。村人たちは教えられた通り、掘ってみると、きれいな水がわき出てきました。それが、弘法大師だったとは、誰も気がつきませんでした。 今でも、そこには、きれいな水がわき出ているそうです。 |