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ささやまのみんわしゅう 文・画 田中貞典 |
■ 捨て子塚春日江と今谷の間の田の中に、形の良い円墳があります。現在になっても、少しもくずれることもなくほとんど完全な姿で残っています。この円墳の頂上は、発掘され上石を一枚取りのぞかれているため、下の石室が見えています。この円墳を人々は捨て子塚と呼んでいます。そのむかし、日照続きで、米がほとんど取れない年が続きました。しかも、そんな凶作の年ほど年貢米の取り立てはきびしく、農家の人々は、草や木の根を食べたり、蛇やかえるまで食べたりして飢えをしのいでいました。しかし、冬にもなれば、さらに食べ物は少なくなっていきました。 作兵衛は、刈り草を入れる篭を背負い、人影のない夜明け前の暗い道を急ぎ足で歩いています。 その篭の中には、二十日前に生まれたばかりの息絶えた赤ちゃんが入れられていました。人に見られると、やはり気がとがめるのか人々の間では、もし、人に出くわしたときには、男の子の場合は、「山へ遊びにやる。」女の子の場合には、「よもぎつみにやる」といっていました。 赤ちゃんがいくら乳が欲しいといって泣いても、母は何も食べていませんから乳が出るはずがありません。赤ちゃんは生きる力をなくしてこの捨て子塚に葬られていったのです。なぜ、この捨て子塚が今も完全な姿で残っているのでしょうか。何かの因縁があるのではないかと、思われてなりません。 |